魔法使い考
【赤い髪】
魔法使いと出会って誰もが目を奪われるのが、その赤い髪である。濃淡や色味に幅はあれど、なにか美しいものを想起させる華やかな色を全ての魔法使いが持っている。
何故赤であるのかについてはあらゆる見解があり未だ議論の終結は見えない。ただ欧米では魔法使いの髪の色であると言われており、おそらくはその周辺の地域から認識が広まったために赤い髪に特別な意味が付加されたのではないかと言う説が比較的有力だ。その他に目立つための進化である説と血の色を表している説もある。
進化の説とは、魔法使いが奇跡を起こせることを認識させるために敢えて奇抜な外見に変容し、人間とは違う生き物であると主張したのではと言う推測である。最初の説と違うのは、あくまでも魔法使いが自発的に赤い髪を選んだことだ。また、このようにある結果へ繋がるためのモチーフやオブジェクトを「魔法の杖」と総称する。
そして血の色の説は、古くに記録された魔法使いの証言を元にした憶測である。曰く、魔法使いは人間から突然変異的に生まれるが、その魔法使いの血を領地に撒くと、暫くの間その家で生まれる子供たちは魔法使いになると言われているそうだ。魔法使いが力を持てば持つほどその期間は長くなるが、百年を越えたという事例は数えるほどしかない。そのため、魔法使いの一族はほとんど定期的に生贄を捧げていることになる。
勿論赤い髪である理由はこれ以外にもあるかもしれないし、全てが事実かもしれないし、間違いかもしれない。それに、今の魔法使いたちは赤い髪を常識として受け入れている。興味のないことを覚えているのはとても難しく、今後もその真実が明かされる可能性は低いだろう。
【基礎能力】
魔法使いの基礎能力とは、魔法を使うにあたって必要不可欠なエネルギー・魔力に関する能力のことで、具体的には一度に使える魔力の強さと、魔力をどれだけ精密に扱えるかの器用さの2つである。
魔力の強さは、例えるならば火力であり、灯火のようにささやかであれば効果が弱く、火の海のように豪勢であれば効果が強くなる。魔力の器用さは、機転が利くかを表すもので、器用であれば一つの数式を色々なことに応用出来るし、不器用ならば同じことしか出来ない。実際にはあらゆる方面から見て総合的に判断されるものだが、妄想魔法においてはドゥームに応戦するときの攻撃力と、プレイヤーの理想を容姿に反映させる精神力にあたるだろうか。
尤もこれは昔からの基準のため、この基礎能力を計りやすい魔法使いは減少しつつある。美少女への変身を望まず、武器などを変じさせる者や、別のオブジェクトに反映させる者、変身しても一部分を変えない者が現れ始め、模範解答でないだけで減点する時代では無くなった。価値観もニーズも多様化した今、一点特化の魔法も重要視されるようになったのだ。
【性別と性転換】
妄想魔法を使う上で重要なのは、人間の信用を得ることである。この人なら理想の少女になれるだろう、と思わせるために、魔法使いの中には容姿を磨くことに余念がない者もいる。勿論全ての奇跡に妄想魔法の技術が必要なわけではないが、力を求めたときには考えざるを得ない。
こうした事実から魔法使いの見た目は女性であることが多く、男性であっても性転換をする事例がほとんどだ。それ故に人間が出会う魔法使いも女性である場合が多いだろう。
赤い髪と同様、理想の少女で無ければならない理由は解明されていない。古くから信仰の対象として女性が好まれていることと、人に警戒されない姿として幼い姿が選ばれてるのではないかという説が囁かれている。
しかし女性への転換がよくあることだとしても、生まれから改編するような魔法を使いこなせるのは永くを生きる魔法使いでなければ難しい。そして性別を変えたとしても魔法使い本人の気質が男性的である場合、声は男性のものから変わらないことが多い。
【援助欲求】
よく言えば気が利いていて、悪く言えばお人好し。性格やこだわりで多少の差はあれど基本的に魔法使いは優しい。これは魔法を使うために願いを叶えるという手段を選んだ魔法使いの渡世術である。自分のために使うのは容易いが、それも過ぎると我儘な化け物になってしまう。化け物の末路は討ち死にであり、憎まれれば憎まれるほど死が近づくと言うことを、魔法使いは知っているのだ。
魔法使いの無意識な奇跡の一つに、読心術がある。文字通り心を読む魔法で、対象がなにを望んでいるかが手に取るようにわかるため、奇跡が起こしやすくなるというものだ。漠然とした強い気持ちだけわかる場合もあれば、誰かが考えていることが常に頭に入ってくるという場合もあり、個人差のある魔法でもある。
援助欲求は魔法使いがここにいる理由である。気持ちが弱ければ刹那的な生き方をしているように見えるし、気持ちが強いほど頼もしい存在に見えるだろう。しかし魔法使いの中にはこれと上手く付き合えず、誰かを助けなければというプレッシャーで心を壊すものもいる。
【高い自己評価】
魔法とは、望むものがある異世界を繋げる力である。不可能に見えれば見えるほどその結果は奇跡のように扱われるが、簡単なものだった場合は無意識に使っていて本人すらわかっていなかったということもある。魔法使いが長生きであったり見た目に劣化が無いのは、無意識により良い未来に繋げているためだ。すなわち、彼らに失敗というものはほとんど無縁であるか、少しの努力で回避出来るものである。それ故に魔法使いは高い自己肯定感を持っていて達観していて、常に自信に溢れているように見えることが非常に多い。
高い自己評価は魔法使いの進化過程の現在地である。評価が高ければカリスマ性を持っている反面尊大に振る舞うこともあるが、評価が低ければ付き合いやすいようにも見えるかもしれない。たまにいる不器用な魔法使いは不得意があることを恥じている傾向が見える。
【こだわり】
執着というのは大雑把に言えば生きる理由になるものだ。実は、古代の魔法使いには備わっていなかった特徴である。なんでも出来るようになった魔法使いは全てのものが無意味に見え、そのうちに命すら軽く扱い、無意識に使える魔法を使わずに簡単に死んでしまうことが多かった。結局生き残った魔法使いが生きることに執着していてそのために魔法を使っていたという話だが、その遺伝子が広く生き渡ったお陰で今に至る。
生きると言っても、生きてなにをしたいのかと言うほうが重要だ。かつては魔法に関する知識欲のみを是としていた風習もあったが、あらゆる価値観が流れ込んだ今では誰かへの強い気持ち、物品の蒐集癖、趣味に没頭するなど、なんでもアリな感じを受ける。所謂マニアとか、オタクとか、そんな言葉でも言い表せるだろう。
こだわりとは魔法使いが生きる理由である。こだわりが強ければ奇人変人にも見えるが生き生きとしていて、こだわりが弱ければ何事にもあっさりとした印象を感じる。程良くこだわっていればより人間らしく見えるような気もする。
【事情通】
他人を助けるためにその気持ちを解りたくて、より素晴らしい結果のために最善を知りたくて、好きなもののためにあらゆる努力をしたい。魔法使いは常に情報に餓えている。元々頼られることが多いために悩みを打ち明けられ、人間関係の詳細をよく把握していた魔法使いにとっては、一集落の全てを理解しているということは当然だった。文明が進歩し世界が広くなった今、だからこそ扱いきれない情報をどこまでも追い求めるようになっているのかもしれない。
事情通であるとは魔法使いの生きる手段である。知りたがりであれば博識である反面パーソナルスペースを侵害しがちだし、情報に興味が無ければ視野が狭くなるが無垢にも見えるかもしれない。分別を弁えて上手くやっていく腕が魔法使いにも必要なようだ。
【合理主義】
魔法使いの無意識な奇跡の一つに運命予測がある。平たく言えばなにが起こるかを理解する魔法で、行動が正しいか否か、不幸を回避するためにはどうすればいいか、選択の理由にするものである。個人差のある魔法であり、明確に未来のビジョンが見える者もいれば、嫌な予感がする程度の直観で終わる者もおり、自分が見たいときに見れる者、なにかの切っ掛けがあって見れる者、直前のことしかわからない者、遥か先の未来がわかる者など、感覚に幅があるようだ。
魔法使いは合理的だ、と書くとまるでロボットのような印象を受けるかもしれないが、それらもひっくるめて奇人変人のような扱いをされることが多い。運命予測で結果がわかった以上、無駄なことは必要無いと考える者がほとんどだからだ。合理主義が極まっていると蝶の羽ばたきが嵐を起こすのであれば、蝶の羽を毟ろうとするような、人間からすれば突拍子もない行動を起こしがちなのである。しかもどのような行動を起こすのかは魔法使いの価値観で大きく変わってくるため、なにをするのかは誰にもわからないのである。
合理主義とは魔法使いの惰性である。主義が強ければ周囲を無視した個人プレーをする場合があるし、主義が弱ければ不幸になる道を選ぶことを厭わないことがある。魔法使いを近寄りがたい存在にしているのはこの特徴が大きな要因の一つだ。
0コメント